頭んなかで、楽しんだ。

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好きな漫画には好きなセリフがあった

 好きな漫画には好きなキャラがいる。

 好きなキャラには好きなセリフがある。

 というわけで第1回『漫画の好きなセリフ発表会』を開催します。なお年代を広めに選出しています。

 

 

純潔のマリア石川雅之

オススメ度☆☆☆☆☆(全3巻で読みやすい 王道 台詞回し)

純潔度☆☆☆★★(周りのハレンチさ) 

 

「その想い全て 何もかもなくなっちゃったじゃない!」

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  『もやしもん』繋がりで購入。百年戦争を舞台に、絶大な魔力を用いて戦いを終わらせようとする魔女マリアとそれを咎める天使の物語。マリアかわいい。

 天使が戦争を静観し、魔女が戦争を制止する構図が面白い。作中、何度か互いの言い分がぶつかり合うわけだが圧倒的な力量の差でもってマリアは抑制される。マリアはそれでも自分ができる範囲で争いを止めようと、監視役のエゼキエル(上のコマの女の子)をも無視して人々の力になろうとする。

 マリアの言動に感化されつつあったエゼキエルは、天使の役目を忘れまいと、マリアに助けを求める矢文を全て燃やしてしまう。それに数刻後気づいたマリアがエゼキエルに泣きながら訴えたセリフがこれだ。救えたかもしれない命を救えなかった後悔。祈りを無視し、ただ見守るだけで何もしない天使たちへの苛立ち。何の罪もない人間が殺され続ける絶望感。これまでコミカルに描かれたマリアの振る舞いと、感情を惜しげもなく吐露する相対的なこのシーンには胸に詰まされるものがあった。マリア泣くな。汝はかわいい。

 

 

『春が来た』

オススメ度☆☆☆☆★(劇画調 紙一重の滑稽さ)

諸行無常度☆☆☆☆☆(現世という地獄)

 

「夜を焼け~~ッ!! 朝を殺せ~~ッ」

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 大切な人は無残に死に、人々の温情も、慈悲も、感じぬほどに乾ききり。憐憫はあれど身も蓋も仏も無し。太郎兵衛と次郎兵衛は残りの人生を、このくそったれな世界を作った仏にケンカをふっかけながら練り歩く。世を恨み憎み天に向かって拳をあげながら叫ぶ。業には業ぶつけるんだよ!宜しく現世の地獄を生きながらして見た二人に怖いもの無し。

 重くなりそうな話も、小島剛夕先生のタッチによって描かれると、人間のどうしようもない滑稽さが浮かび上がり自然と読後感は気持ちがいい。それは太郎兵衛と次郎兵衛の、どんなに絶望的であっても腹は減り、色香に惑わされたりする人間臭さが拍車をかけてもいるだろう。小島剛夕先生を知らない人は彼の絵の妙を味わえる作品なので本作か『首切り朝』『乾いて候』を是非。絵柄的には小島の柔、平田(弘史)の剛といったところか。

 

 

め組の大吾曽田正人

 オススメ度☆☆☆★★(主人公の圧倒的な魅力 消防漫画 後半の尻窄み)

一気読み度☆☆☆☆☆(話の引き込みの巧さ 緊張感 章ごとの構成力) 

 

「もう少しだけ ここに…残ろう…なっ?」

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 曽田正人先生『め組の大吾』屈指の名シーン。大吾(だいご)はリスク度外視の破茶滅茶な暴れ馬っぷりで消防士らしからぬ超異端児だが、何故か現場(警察や消防では「げんじょう」と読む)の死者はゼロであった。そこに同僚たちは大吾のフィジカルだけではなく、直感や経験では語れないシックスセンス的な能力を感じるようになる。そんな大吾自身は現場こそが自分の居場所なのではないかと、火消しであると同時に「内心では火事を望んでいる」という矛盾に懊悩する。

 同じ「匂い」を嗅ぎ取った上司で切れ者の荒(あら)は真意を確かめるべく半強制的に大吾を現場に同行させる。酷く退屈で当たり障りのない日常。淡々と過ぎていく毎日。しかし現場は違う。燃え盛る炎と煙の中、生と死の境をひしひしと感じる極限の緊張感、容赦無く襲い掛かる業火との対峙の果てに、自分が生きている充実感を味わうことができる「究極のアトラクション」。荒は外れてしまったネジを大吾に突きつけることで、大吾の言動をあわよくば楽しもうとさえした。

  だが荒の画策は失敗に終わる。アトラクションのスリルも生の充実感も、生きてこそなのだ。死んでしまっては意味がない。命あってこそ。その線引きは荒も重々承知。しかし大吾は違った。退避が数秒遅れれば死の状況下で放ったのがこのセリフである。

 大吾が常軌を逸したと、当時読んでいた自分はぶったまげた。火事の中が心地良いと思う変態、人が人ならざる者に変わる瞬間を見たと興奮した。

 正直この後の話は悪い意味で裏切られたので、荒とのカラミが個人的にこの漫画のピークではあるのだが。

 

 

『カリクラ』華倫変

オススメ度☆☆★★★(オススメしたいのかしたくないのかわからない)

ガロ度☆☆☆☆☆(知らずしてアングラ語るなかれ)

 

そしてまたもとどおりになった

また もとどおりになって

もとどおりの生活を続けるだけだった

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  華倫変の作品を見たのは、確かヤングマガジンで賞を取ったか何かで掲載されていたのが初だったと思う。女の子が売春をしていて、超ハードプレイされたにも関わらず、普段と変わらない表情で飄々と会話している描写がやけに記憶に残った。

 華倫変のキャラは人身売買されていたり、人前でヘロインをやったり、特殊な性癖を持っていたりと、だいたい(私たちにとって)非日常な物事を抱えている。しかし誰かと会話しているときは殆どが淡々としている場合が多い。そうすることが自我のバランスを保つ処世術なのかもしれないし、非日常すらも日常の連続性であり特に気に留めるものではないのかもしれない。いずれにせよ、彼彼女はどうあがいても「日常」に戻ってくる。ただその日常は読者にとって何かベトベトしてこびり付くような印象を与える。

 

 

『魔女』五十嵐大介

 オススメ度☆☆☆☆★(NOT万人受け)

コトバ度☆☆☆☆☆(どのセリフも聞き逃さないよう注意)

 

「あんたには経験が足りないからよ。

"体験"と"言葉"は同じ量ずつないと、心のバランスがとれないのよ。」

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 初めて読んだときから、自分の人生の中でこれ以上の漫画は暫く出ないだろうと思って凡そ10年。未だにそれは破られていない(同着で『さくらの唄』)。

 魔女が齎す力と智慧を巡る人間の有象無象の物語。魔女が司る智慧とは何か、その末端を垣間見ることが出来る作品。

 漫画としては多分、読みづらい。描写に対して説明が淡白で、会話もぶっ飛んでたり突拍子が無かったりして(そういうふうに見える)終始読者を置き去りにしていく。総じて五十嵐大介の作品は漫画として読むと結構体力を使う。

 彼の漫画の触れ方は「挿絵の多い寓話、小説、詩集、童話」ではないかと思う。謂わゆるマンガ読みと呼ばれる人ではなく、普段漫画を読まないような人のほうがピタリと嵌ったりするだろう。同じ著者による『SARU』も併せて薦めたい。兎角とんでもなくとんでもない作品なので機会があればご一読を。

 

 

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