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【解説】『月曜日の友達』小ネタと最終話と超能力と【考察】

※ネタバレありなので未読の方はご注意を

 

『月曜日の友達』には、一見なんでもないシーンが実は非常に重要なシーンであったり、これを知っていればもっと楽しめる!というような描写があちこちに隠されている。前回の記事(【感想】ポエム(笑)から始める『月曜日の友達』)で伝えきれなかった部分をここでは紹介していきたいと思う。

 

inthefullmoon.hatenablog.com

 

なお考察を含むため、実際は違う点があるかもしれないのを念頭に置いていただけるとありがたし。

 

 『月曜日の友達』の小ネタたち

  1. 舞台は兵庫県
  2. 名前のヒミツ
  3. それぞれの能力とその効果
  4. 火木香の勘違い
  5. 月野透の勘違い
  6. なぜ火木香はひとりぼっちになったのか
  7. これが『月曜日の友達』の時系列だ!
  8. 最終話の意味

 

1.舞台は兵庫県

聖地巡礼をされた方(いのけん@inoken0315さん)の記事がこちらの後半にまとめられている。水谷たちが行ったロープウェイやカラオケ店をはじめ、漫画内での何気ない路地など、読んだ人は思わずニヤリとしてしまう写真が並んでいるので是非。

togetter.com

 

2.名前のヒミツ

キャラの名字に日〜土の一週間を示す漢字が含まれている有名な小ネタ。一週間グループ。

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名前が漢字一文字というのも特徴的。 
ちなみにいつも水谷たちと一緒にいたのに一週間グループに入れなかった女の子の名前は「春林」さん。かわいそうな子…。といっても実は水谷と直接話すシーンが無く、土森の友達だからという程度の関係だったなのかなと。友達の友達という距離感ではよくある話。

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3.それぞれの超能力とその効果

<能力>

月野透:念動力:物体を浮かすことができる
火木香:霊視 :霊体を見ることができる
土森緑:治癒:心を癒すことができる
水谷茜:発光:光を発現させることができる

水谷はさらに他者の超能力を強めることができる力(相乗作用)もある。
強化されるとどうなるのかは物語終盤の現象を見るとわかってくる。

 

<水谷に強化されると?>

月野透:大きくて無数の物体を浮かすことができる(ラストの夜間飛行)
火木香:霊体に触れることができる(火木兄の具現化)
土森緑:外傷を癒すことができる(頬の切り傷の回復)

水谷の発する光との距離に比例して影響が強く表れるようになっている。後半の強化が、水谷と直接触れ発光した際に起きていたのがわかると思う。その点を留意して読み直すと新たな発見があるのでオススメ。

 

4.火木香の勘違い

火木は物語の初め辺りから月野に好意のようなものを抱いているのがわかるが、そのせいなのか大きな勘違いをしている。

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「幽霊が見えるようになった」「不思議なことがおこる」のは月野だからではなく、水谷の他者の超能力を強める力によるもの(前述)。火木自身の霊視の力がただ強められていただけだったのだ。恋は盲目よろしく月野の近くにはいつも水谷がいたのを火木は最後まで気づかなかった。
 

5.月野透の勘違い

終盤の超能力について語るシーン。

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月野透は超能力(彼の場合は念動力)の体験は二度だと言ってるが、実はこの時点で、もう2回念動力が発動していたのを彼は気づいていない*1

 

月野が自覚している体験は火木香とのゲーム機浮遊。
もうひとつは火木香の兄との接触。月野透のセリフでそのおおよそが語られている。

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では月野透自身気づかなかった念動力とはどこだろうか?
それはまず第1話のこのシーンにある。

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「なぜ中庭に机があるのか?」答えはズバリ、念動力である。
冒頭に月野透と水谷茜の接触で起きたのがきっかけのそれだ。ご丁寧にひとつだけ窓が開いてるのもそのヒントになっている。初めての接触の影響はたったひとつの机でしたが、ラストの無数に浮かぶ机のシーンへ繋がっているとわかると感慨深い場面でもある。

そして最もわかりづらいと思われるのがこのシーン。

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夏休みに二人で海辺へ行く場面。静電気が発生したと思われる水谷のセリフがあったにも関わらず念動力の描写がないなと思っていたが上記のコマ。よーく見るとペットボトルの水滴*2が上方に浮いて葉っぱの上に付着している。他のコマの雫は全て横方向に流れているのにこのコマだけ上方向になっているのだ。つまり念動力はきちんと発動していたことがわかる。

月野の超能力が起きた場面をまとめると、

  1. 火木兄との接触
  2. 水谷茜との初接触(自覚ナシ)
  3. 水谷茜と自転車での接触(自覚ナシ)
  4. 火木香との接触
  5. 水谷茜との夜間飛行

ということになる。それぞれの詳細は項目7の月野透の時系列にて。

 

6.なぜ火木香はひとりぼっちになったのか

夏休みが終わり新学期が始まると、取り巻きが火木を見限って相手にしなくなっている。

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理由はもちろん「火木の兄が既に故人だったのがバレた」からなのだが、なぜ夏休み中のタイミングだったのか?それは水谷の発光(項目3)が大きく影響している。
水谷と月野が自転車で二人乗りしている最中に光が発現したが、その影響は月野だけではなく火木にも及んでいた。
空で一瞬輝いた発光が街のどこかにいた火木の目に留まり幽霊を目撃する。ふためく火木の行動を見た取巻きたちが不審に思い、その結果兄の死がバレて、火木はひとりぼっちになってしまったわけである。

水谷と月野が夏休みに会っていなければ、火木の環境も変わらないままだったかもしれない。

 

7.これが『月曜日の友達』の時系列だ!

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 太字は超能力発動場面。

 

8.最終話の意味

最終話は「大人になっていった水谷たちの余韻」である。

どういうことか。
まず雑誌連載時と単行本では若干の違いがあるので確認していこう。

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連載時。水谷の「静かに 静かに。」の独白後、左に何も描かれていない大コマが1ページ埋めた次から下画像の校舎のシーンへと続く。
単行本では独白後、白紙の見開きが挿し込まれ、更に「おはよう」の独立したセリフの後に校舎、と変更されています。つまり単行本は校舎へ続く前の時間経過に4ページ使っていることになる。
これはどういうことかというと、最終話のテーマである「余韻」を残すためである。

連載時はラストの語り合いから進学するまでの時間経過がたった半ページしかないため、読者が「余韻」を感じることができづらい構成になっていた*3

しかし時間の流れに4ページ割くことによって読者は安心して水谷らの卒業を想像し耽ることができるのである*4

ではその次のページを見ていこう。

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ここからほぼ同じ構図で進むが、単行本ではさり気なく一人の生徒に焦点が当てられており、彼女を追うようなコマの進み方をしている。連載時にはいない、階段を上るバッグを背負ったツインテールの女の子。

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新一年生なので最上階へ向かい、

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廊下を通って教室に入り、窓際の自分の席に向かい、バッグを机の横に掛けてうつ伏せに。

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誰もいなくなった教室で仲の良い友達と放課後オシャベリ。
これは何を意味するのか?

今まで水谷の一人称視点で進んできた物語が最終話でついに三人称へ変わったことを知らせる点である。
つまり「水谷の物語」から「別の物語」へ遷移したことを意味する。

上画像の左下、最後のコマの余白。ここは水谷と土森が一年生の時に座ってた席であり、したがって続くページの最後の風景は「水谷茜がいつも席で見ていた風景」となる。 

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「水谷がいつもの席にいない」こと「別の物語が始まっている」こと。水谷たちがここにはいないことを、最後に改めて提示することで「余韻」をさらに深く感じさせるような構図になっているわけだ。

そのほか単行本の最終話の気になる点を挙げると、季節が一巡して「の季節(春)」で物語の終わりが告げられていたり、連載時は13話だったのをあえて8という数字の話数にまとめられていたり(一週間グループ(7日)から抜け出しの友達ができていく(8へ))など。細かなすべての要因が「次(大人)へ向かっていく示唆(子どもたち)」として最終話に収束していく。
それら全ては、子どもから大人に向かっていった物語を残していなくなった登場人物たちと、席から見える街の風景をラストにすることで、変わっていく子どもたち(水谷たち)と、変わらずにいる街並み(読者)の対比と合わせて読後感に最大限の「余韻」を齎すものとなっている。

だから私たちは『月曜日の友達』を読み終えた後、様々な感情が沸き上がり、ずっしりと、しかし確かに優しく心に残るのである。

 


amazarashi『月曜日』“Monday” Music Video|マンガ「月曜日の友達」主題歌

 

感想

読み返す度に新たな発見があるスルメな作品である。
そして今回の記事を書くにあたって強烈に感じたのは詩の変化として漫画はベストな姿であるかもということ。窓口は広く、中は噛めば噛むほど味が出る。「言葉」を遊ぶには素晴らしい構成だ。
絵柄もまた可愛らしい。個人的には火木のお兄ちゃんと再会するシーンが最高の悶絶ポイントだったが、水谷と月野の自転車のシーンも、茜色に染まる林の中を純粋な(透明な)二人が駆け抜けるという、名前に即した風景に落とし込んだ作者の優しさが映えていて好きな場面だ。
ということでまだまだ遊び足りない本作をもっと楽しむために、「超能力の正体」「実は月野透は超能力を使えない」「クライマックスの夜間飛行で何が起きていたのか」などを次回一気に公開する予定。お付き合いいただければ。

 

次回「月野透側の『月曜日の友達』」更新予定

 

連載時の『月曜日の友達』最終話を見たい人はこちら↓ 

単行本と合わせて読むとなるほどなと新たな発見が多々あります。

 

月曜日

月曜日

 

 

地方都市のメメント・モリ

地方都市のメメント・モリ

 

 

 

 

 

 

*1:「体験」という意味合いでは間違いではないのですがここではご愛嬌

*2:もしくは汗

*3:しかしながら雑誌の場合、印刷ミスなどの観点から白紙の演出(挿し込み)ができないので致し方ない点ではあります。また余談ですが有名なシャーマンキングの無無明亦無月光条例の場合はいずれも文字があり完全な白紙ではありません。

*4:余談だがスピリッツ連載時の最終話はなんと全部で58ページもある(2巻129P「机十六個とボール六十四個の準備だ!うおー!」のコマから)。また実質12話目であり(単行本だと最終話は8話目)、話数ごとに区切りの調整もされている。この修正に注目するなら単行本の最終話はたった8ページしかない。